生まれ月格差(早生まれの不利)について考えてみた

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こどもの日なので、子どもに関する気になる情報について調べてみた。自分が早生まれなのは気にしたことがないが、子を持つ親の立場になると、生まれ月によって格差があるというのは気になる。今回は早生まれに「どんな損があるのか?」「解消できないものなのか?」を、ひとりの親として考えてみた。

はじめに

日本では、4月生まれ(4/1生まれを除く)からが学年内の年長となり、早生まれの子(1/1~4/1までに生まれた子)は学年内で年少となるため、早生まれが不利だという研究結果がある。

さらに、成長格差の他にも、制度的に「早生まれ」が不利となる格差も存在する。

生まれ月別の人口

生まれ月別の人口を確認しておきたかったが、月別の人口は分からなかった。
令和2年国勢調査の人口等基本集計open_in_new」では、四半期ごとの区分で発表されているので、こちらのデータで確認した。

あまり高年齢まで含むと、戦前生まれの方も入って教育事情が想像できないのと、もし生まれ月による寿命の差などがあった場合に面倒なので、60歳までの人口とし、外国籍の方はずっと日本に在住しているとも限らないので、日本人のみの人口で確認した。

  • 男性
  • 女性
生まれ月区分 日本人の人口(男) 日本人の人口(女) 合計
1月~3月 10,013,575 9,797,344 19,810,919
4月~6月 9,988,900 9,654,285 19,643,185
7月~9月 10,462,738 10,140,847 20,603,585
10月~12月 9,989,650 9,753,383 19,743,033

「令和2年国勢調査 人口等基本集計」のデータより作成

7月~9月生まれが少し多いが、早生まれの人口が他の区分より特に少ないなどはなかった。
割と綺麗に分布している。

ちなみに、日本人の誕生日で一番多いのは4/2のよう。昔から格差があることを分かって、誕生日ハックしているってことだろうか。噂によるとお医者さんの子どもは4/2の誕生日が多いとか多くないとか。。

生まれ月格差の実態

child_care保活

保活とは、子どもを保育園などに入れるために保護者が行う活動のこと。
労働基準法で産後56日間は就業してはならないと決まっているため、認可保育園(児童福祉法に定められた基準を満たし、国から認可されている保育園)では生後57日以降の預かりとするのが基本条件。

0歳児クラスの4月入園を希望する場合、2月初旬以降に生まれた場合は、そもそも生後57日以降の条件を満たしていないので、預けることができない。また、生後57日以降の条件を満たしていたとしても、自治体によっては出産後でないと申し込みができないなどのケースもある。

「そんなに焦らなくても1歳児クラスの4月入園で良いのでは?」と思うだろうが、都市部などでは難しい傾向にある。保育園の枠は0歳からの繰り上がり分で埋まるため、1歳児クラスはそもそもの枠が少なく、さらに入園が難しくなる。共働きでないと生活が苦しい場合、仕事復帰が難しくなってしまう。

money扶養控除・児童手当

こちらも制度上の不利な点だ。
まずはそれぞれの制度で不利な点が生じるところを抜粋した。

  • 児童手当
    出生日の翌月(普通に申請していれば)から15歳の誕生日後の最初の3月31日まで。
  • 扶養控除
    • 控除対象扶養親族
      扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が16歳以上。
    • 特定扶養親族
      控除対象扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満。

    民法では誕生日前日の24時に年齢が上がるため、1月1日生まれも、その年12月31日現在の年齢に含まれる。

分かりやすく、4月生まれ(遅生まれ代表)と3月生まれ(早生まれ代表)で、ストレートに大学まで卒業し、新卒入社した場合の比較表を作ってみた。
ややこしいので、ここでは4月1日生まれは例外とする。

4月生まれ 3月生まれ 差額
児童手当(中学卒業まで) 累計支給額 209万円 累計支給額 198万円 11万円
扶養控除(高校1年) 控除額 38万円 控除額 0円 38万円
扶養控除(高校2年) 控除額 38万円 控除額 38万円 -
扶養控除(高校3年) 控除額 38万円 控除額 38万円 -
扶養控除(大学1年) 控除額 63万円 控除額 38万円 25万円
扶養控除(大学2年) 控除額 63万円 控除額 63万円 -
扶養控除(大学3年) 控除額 63万円 控除額 63万円 -
扶養控除(大学4年) 控除額 63万円 控除額 63万円 -
扶養控除(新社会人) 控除額 0円 控除額 0円 -

*児童手当は、第1子・第2子で所得制限対象外の場合

まず児童手当は、支給開始は誕生月の翌月からだが、支給終了は15歳になった3月までなので、遅生まれの方が長く貰え、最大11万円の差額が生じる。

次に扶養控除は、12月31日現在の年齢で対象が決まるので、遅生まれは高校1年では控除額0円となってしまう。同じ理由で、大学1年の特定扶養親族にも入れず、ここでも損をする。1年遅れと思いきや、新社会人になって働きはじめると扶養対象ではないので、差が埋まることはない。

誕生日、年度、暦年などで辻褄がおかしい制度は、新卒入社で一斉に4月から働き始めることが多いにも関わらず、定年退職は60歳に達した日となっているなどでも存在する。

school受験学力・非認知能力

こちらは成長差による不利な点。
東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授がツイートしている研究紹介から。

より詳しい情報と見解は、RIETI - 生まれ月がスキルやスキル形成に及ぼす影響open_in_newにある。

現在は東京大学大学院経済学研究科の川口大司教授が、過去に書かれている「誕生日と学業成績・最終学歴」- 日本労働研究雑誌 2007年12月号(No.569)open_in_newも見てみる。

生まれ月による受験学力の差は、子どもが大きくなっても存在するとのこと。
同学年で比較すると、「早生まれの子」は「遅生まれの子」よりも劣っていることが多く、自己肯定感が生まれにくい。また、子どもと関わる大人たちも、劣っている子には期待が低くなるため、ゴーレム効果による影響もあるようだ。反対に「遅生まれの子」は、自己肯定感が高く、ピグマリオン効果の影響があるということになる。

また、「早生まれの子」は学力差を埋めるために、学校以外での勉強時間が多くなり、「遅生まれの子」よりも他の習い事や遊びなどの体験に使う時間が少なくなる傾向にある。

社会的に成功する人は非認知能力が高いといわれているが、「早生まれの子」は、認知能力と非認知能力が、ともに低い傾向にあり、同学年での成長差がなくなる年齢に達したとしても、子どもの頃の差や入試制度などが尾を引いて、30歳~34歳の所得は早生まれの方が約4%低くなっているとのこと。

directions_runスポーツ

幼少期から始める人口が多く、プロの競技人口が多いものということで、野球とサッカーの日本2大スポーツでプロになった選手の生まれ月を確認した。今回は、男性のデータしか確認していない。女性で参考になるデータが分かれば確認したい。

  • sports_soccerサッカー

    プロサッカー選手の生まれ月のデータは、「Jリーグ公式サイト - 選手名鑑open_in_new」に掲載されているデータから集計。出生地と名前のデータから、日本育ちでないと予想される選手は除外した。

    生まれ月別のプロサッカー選手数
    生まれ月 選手数
    4月 613 613
    5月 576 576
    6月 529 529
    7月 510 510
    8月 449 449
    9月 427 427
    10月 356 356
    11月 296 296
    12月 276 276
    1月 254 254
    2月 225 225
    3月 223 223

    *4月1日生まれの選手は3月生まれとして集計

  • sports_baseball野球

    プロ野球選手の生まれ月のデータは、「日本野球機構 - 全ての選手を探すopen_in_new」に掲載されているデータから集計。プロ野球はサッカーより歴史があるので、「教育基本法」と「学校教育法」が制定された1947年以降に生まれた選手に絞った。また、経歴のデータから、外国の学校などで日本育ちでないと予想される選手は除外した。

    なお、現役選手と引退選手も区別されていたので、色分けしている。

    生まれ月別のプロ野球選手数
    生まれ月 引退選手数 現役選手数 合計
    4月 353 108 461
    5月 351 102 453
    6月 339 104 443
    7月 347 96 443
    8月 309 93 402
    9月 272 87 359
    10月 234 60 294
    11月 206 75 281
    12月 183 73 256
    1月 187 64 251
    2月 150 50 200
    3月 139 54 193

    *4月1日生まれの選手は3月生まれとして集計

単純に生まれ月別のプロ選手を集計すると、早生まれがかなり少ない結果となった。
野球なら1軍の試合出場数、サッカーならJ1の試合出場数などで、さらに厳しい基準で絞り込んで集計すると、また違った結果になるかもしれないが、引退した選手を含めて集計するのは難しいため諦めた。

成長差のある時期での遊びや習い始めの時点で差があれば、そもそも習い事にいっていないか、すぐに辞めてしまうなど、早生まれで続けた子どもが少ないのかもしれない。理由はどうあれ、単純な集計だとスポーツでも生まれ月格差はあるとみてよさそう。

ちなみに野球界では、究極の早生まれである4月1日生まれで、超ビッグネームの桑田真澄さんがいます。

格差是正できるのか

格差があるとした場合、一般庶民としての感想としては割と簡単に是正できそうだと思うが、実際の難度は分からない。庶民なりにブログで吠えてみる。

辻褄か帳尻を合わせる

児童手当とか扶養控除とか、辻褄か帳尻を合わせれば済む話。
年度 / 暦年 / 誕生日、開始と終了は同じ基準にすれば解決するものも多い。

児童手当と扶養控除、違う制度だから違っていて良い!というのは間違いだ。以前にあった年少扶養控除は、当時の子ども手当(元の児童手当から民主党政権時に子ども手当に変更、自民党政権奪還後に児童手当に戻るという変遷)があるという理由で廃止され、制度改正の理由に違う制度が用いられている。

ここで可哀そうなのが、早生まれの子どもを持つ世帯。明らかに割を食っている。辻褄を合わせなければ、早生まれの損の帳尻を合わせるルールを追加してほしい。何やら何度も国会などで議題に上がっているらしいが、恐らく敢えて改善しないつもりじゃないかと思う。手続きが云々とかなら、デジタル庁に期待したい。

かがみ入学を認める / 小学校の留年を認める

海外などでは、小学校入学を遅らせるかどうか選択できる。
「飛び入学」の反対として「かがみ入学」を認めれば解決すると多くの人が提案している。

ちなみに「かがみ入学」というのは勝手に作った造語だ。
iPS細胞で有名な山中伸弥教授の名言“ 高く飛ぶためには思いっきり低くかがむ必要があるのです ”からお借りした。

よく教育のDXだ!個別最適化だ!とか聞くが、「アダプティブ・ラーニング」とか「パーソナライズド・ラーニング」とかの前に、小学校入学のタイミングを調整できるようにしたらどうだろう。

意地でも入学を揃える場合は、小学校で留年できればよい。無理して劣等感を感じながら、高校や大学、就職まで必死についていくよりも、小学校で留年した方が幸せな気がする。個別最適化とやらが実現して、科目別に学習の進度と深度を調整できるなど、より高い調整が実現できるのなら、留年でなくてもよい。

最後に面白い記事を紹介。
日本サッカー協会では一度だけ「早生まれセレクション」を行ったようだ。
文春オンライン - 内田篤人“3月生まれのエリート”が活躍できた理由《東大論文「早生まれは不利》open_in_new

おわりに

生まれ月格差は、圧倒的才能を持つ「天才」など当てはまらないだろうが、私のような一般人には十分当てはまる。日本を動かすエリート層が、こんな庶民が分かることに気付かないわけがないので、敢えて是正していないのか?なんて思ってもしまう。。お上の伝家の宝刀「自己責任(JIKOSEKININ)」発動中か。

いち庶民としては、こういった傾向を知り、子どもの成長に合わせて接していくしかないと思う。庶民の伝家の宝刀「よそはよそ、うちはうち」だ。制度にただ任せずに、制度をハックして別の方法を取るなど、精一杯「我が子最適化」に励むしかない。

ちなみに記事中の棒グラフをCharts.cssを使って書きましたが、便利だったので棒グラフをCSSフレームワーク「Charts.css」で作ったら超便利だったで使い方を紹介しています。